マキタ モノづくりのSTORY

Project story 01

ハイパワーと使いやすさを両立した
インパクトドライバTD002G

2022年1月、40Vmaxシリーズの充電式インパクトドライバTD002Gがリリースされた。打撃部に2種類のコンプレッションスプリングを搭載したデュアルスプリングテクノロジーにより、打撃動作時のフィーリングが大幅に向上。
また、別売りの通信アダプタを装着することで、スマホアプリを使ったBluetooth通信による動作カスタマイズが可能になった。ハイパワーと使いやすさを両立したマキタ史上最高傑作のインパクトドライバが、市場を席巻している。

  • Profile
  • K.T

    第2開発部
    2001年入社
    工学部 機械工学科 卒業

    機械製品の設計に携わりたいという思いから、新卒でマキタに入社。TD002Gプロジェクトでは、製品仕様案の提示、具体的な製品化への立案・構想・全体設計、機械部品の設計、開発工程の進捗管理を担当した。

  • K.I

    第1電装技術部
    2011年入社
    工学部 電気電子工学科 卒業

    自動車部品メーカーで経験を積み、キャリア採用にてマキタに入社する。TD002Gを制御するソフトウェア設計を担当し、スマホアプリを使ったBluetooth通信による動作カスタマイズを実現させた。

  • K.S

    営業管理部
    2009年入社
    経営学部 経営学科 卒業

    アフターサービスにおいて営業担当者が自らの手で修理を行う、マキタの営業スタイルに惹かれ入社。現場におけるユーザーの声を収集し、それを新製品開発に活かすことを使命とする。趣味は車の分解整備。

掲載内容は、取材当時の情報です。

Episode 1
現場で得たリアルな情報を
製品開発に反映させる

マキタでは2019年より、40Vmaxリチウムイオンバッテリという、新たなバッテリシリーズを展開している。従来品の18Vから40Vにパワーアップしたことで、高負荷時の連続作業時間が2倍以上に延び、バッテリ寿命や耐衝撃性も大幅に向上した。
これまでエンジンやAC100V電源を主流の動力源とする高出力な製品群を、40Vmaxリチウムイオンバッテリで充電式へ置き替える。マキタの製品は、ひとつのバッテリでバリエーション豊富な電動工具に使用できる。40Vmaxリチウムイオンバッテリシリーズの販売をさらに加速させるためには、主力製品であるインパクトドライバの新モデル開発を成功させることが至上命令だった。
TD002Gプロジェクト発足にあたっては、まず従来機の課題を抽出するところから着手した。過去に営業担当として、数多くのユーザーと向きあった経歴をもつ新製品企画担当のK.Sが情報収集に奔走した。

高速でビスを打ち込み、作業効率を上げるためにハイパワーは必須条件だ。しかし、建設現場の職人が求めているのはパワーだけではない。軽作業から重作業まで 様々な用途で使用されるインパクトドライバは使いやすさも重要であった。
ハイパワーと使いやすさ。相反するテーマを両立させることが、本プロジェクトの肝となる。K.Sは自ら現場に赴きユーザーの要望を手に入れ、また、全国の営業担当からの情報を取りまとめ、それを開発担当のK.Tに伝えた。

Episode 2
ふたつのスプリングと
コンパクト化の追求

軽作業と重作業の両立をするためにK.Tが過去の事例から着想を得たのは、硬さの異なるふたつのスプリングを組み合わせることである。マキタがこの仕組みを取り入れるのは、初の試みだった。
打撃部に2種類のコンプレッションスプリングを搭載したこの仕組み「デュアルスプリングテクノロジー」は、締めつけ作業時、最初にひとつめのやわらかいスプリングが効き、低負荷の状態から素早く打撃開始。高負荷になると硬いスプリングが加わり、より強力に打撃する。低反動・低振動を実現し、カムアウト(ネジ頭からビットが外れる現象)を低減するとともに、締めつけスピードを格段にアップさせることが期待できた。

利点しかないように思えるデュアルスプリングテクノロジーだが、しかし、懸念点もあった。ふたつのスプリングが製品の中に組み込まれるため、どうしてもスペース確保の問題がともなう。製品のサイズが大きくなれば、現場のニーズは満たせない。デュアルスプリングテクノロジーを搭載しつつも全長を抑えられるよう、K.Tは構想を練った。
また、コンパクト化を追求するがあまり、機械部品の耐久性の面でも問題が生じてしまう。具体的には潤滑不良だったのだが、K.Tは関係者にアドバイスや協力を仰ぎ、部品の細部の形状や寸法設定、グリス(潤滑剤)の種類を徹底的に見直した。そして、トライアルアンドエラーを繰り返しながら試作を重ね、K.Sを通して綿密な市場調査を実施し、ハード面の仕様を固めていった。

Episode 3
そのユーザーにとって
最高に使いやすい設定を

ハード面の仕様検討と同時並行で、K.Iはソフトウェアの設計を進めていた。TD002Gは、別売りの通信アダプタを装着することで、スマホアプリを使ったBluetooth通信による動作カスタマイズができる。しかも、設定した項目はインパクトドライバ本体に保存されるので、通信アダプタを常時接続する必要もない。これにより、たとえば打撃のパワーやスピードを切り替えたり、ヘッド先端にあるLEDライトの照度を調整したりすることが可能になった。
K.Iが目指したのは、手にしたユーザーにとって最高に使いやすいインパクトドライバに設定できることである。本体に物理的なボタンを追加するのではなく、スマホアプリに連動させたのも、そのためだ。ただ、なんでもかんでもカスタマイズできればいいわけではない。過剰な機能はユーザーを混乱させることにもつながるので、搭載する必要かつ最適な機能は何か、皆で実際に何度も使用して、打ち合わせを繰り返した。

また、TD002Gには打撃を検出してスピードを切り替える様々な動作モードがある。新機構のデュアルスプリングテクノロジーにより、従来の打撃を検出するアルゴリズムでは正常に打撃を検出できないケースが発覚したが、K.Iは自ら実際に製品を使用して詳細なデータをとり、TD002Gに最適なアルゴリズムを設計していった。
ソフトウェアには、ハードウェアのような物理的制約がない。たとえば、ソフトウェアだけでインパクトドライバの最高回転数を200%や300%向上するのは不可能だが、K.Sが収集したユーザーの要望する操作感や加速性能に制御することなら実現できる。だからこそK.Iは、困難に直面しても安易にNOとはいわず、自分の領域における可能性をとことんまで追求した。
そして2022年1月、40Vmaxシリーズの充電式インパクトドライバTD002Gがついにリリースされた。市場の反応は上々で、専用アプリのダウンロード数も順調に延びている。
そんな状況を見て、プロジェクトにかかわったK.T、K.I、K.Sの3名は一様に思ったのだった。
できることはすべてやった、と。

それぞれの担当者が部署を横断してつながり、相互に作用しあいながら、とことんユーザーに寄り添った製品を世の中に送りだす。それがマキタの最大の強みだといっていいだろう。
マキタ史上最高傑作のインパクトドライバが誕生した、と冒頭で述べたが、それは到達点を意味するものでは決してない。なぜなら、またしばらくすれば新たなプロジェクトが立ち上がり、マキタ史上最高傑作は更新され続けていくのだから──。