マキタ モノづくりのSTORY

Project story 02

充電式の園芸工具向けに
新たなブラシレスモータを開発

従来、草刈機やチェンソーなどの園芸工具はエンジン製品が主流だったが、排ガスによる環境負荷や騒音が問題視されていた。そこでマキタでは、排ガスゼロを特長とする充電製品への置き換えを促進し、脱炭素社会の実現に貢献する方針を打ちだした。ただし、エンジン製品と比較したとき、充電製品はパワーと質量のバランスが課題となる。この課題を解決すべく、本プロジェクトが立ち上がった。

  • Profile
  • K.K

    第2電装技術部
    2011年入社
    工学部 物理工学科 卒業

    グローバル企業で世界を相手に戦う仕事がしたい、という思いからマキタに入社。本プロジェクトでは新規モータの開発を担当。マキタにおける新規モータ開発は、開発・設計だけでなく、モータの試作や評価、また、新規モータが量産に至るまでの関係部署調整なども行う。

  • N.T

    生産技術部
    2012年入社
    工学部 知能システム工学科 卒業

    安城市出身で、父が造園業を営んでいたこともあり、もともとマキタは身近な存在だった。新規モータ開発にあたっては、ステータ(固定子)の工程設計と生産設備の設計、製作、立ち上げ、量産フォローを担う。

  • K.T

    OPE開発部
    2018年入社
    工学部 機械工学科 卒業

    ものづくりが好きで完成品メーカーを志望していたところ、マキタと出会った。製品開発担当としてプロジェクトにかかわり、ユーザー側の要望を製品の仕様に落とし込んでいく。検証業務も重要な役割のひとつ。

掲載内容は、取材当時の情報です。

Episode 1
軽量かつハイパワーを実現する
新しいモータが必要だ

エンジン製品を充電製品に置き換える最大のメリットは、使用時に排ガスを出さず、低騒音低振動で周辺環境とユーザーにやさしい点である。また、燃料補給や始動の手間もない。そのため、市街地での緑地管理や庭木の管理において使用される機会が多くなっている。
園芸工具市場においては、同業他社も電動製品の開発に力を入れており、競争が激化している。より魅力的な製品を投入し、市場の中でのマキタの地位を確固たるものにする必要があった。
2019年春、製品開発担当のK.Tは、トップハンドルチェンソーの新モデル開発に着手することになった。樹上での作業も想定されるトップハンドルチェンソーでは、効率的に作業を行うため、ハイパワーかつ軽量であることが求められる。多くの場合、パワーを求めれば重くなり、軽さを求めればパワーが落ちる。その難題に挑むため、K.Tが目をつけたのがモータである。早速、彼はモータ開発担当のK.Kに相談を持ちかけた。

既存の充電式チェンソーのイメージを覆すような新規モータを開発してほしい──。
使用感を向上させる具体的な要望として、まずひとつは、起動時や重負荷時のトルクを高めること。そしてもうひとつが、モータそのものを軽くすることだった。
※トルク
モータのトルクが大きい場合、強い力でチェンソーを木に押し付けても回転し続けることができ、使用感向上につながる。

Episode 2
ギリギリの状態から始まる開発で
1,000を超えるシミュレーション

今回K.Kが新規開発したのは、マキタ既存の充電式チェンソーに搭載しているモータに対してハイパワー・軽量化を追求した新規ブラシレスモータである。
この新規モータ開発のプロセスは、決して順風満帆だったわけではない。
もともとマキタでは新製品開発が頻繁に行われ、そのたびに数グラム単位の軽量化や数円単位のコストダウンが図られている。もうこれ以上の改善は無理だ。そんなギリギリの状態から、毎回開発をスタートさせることになるのだ。今回開発された、新規モータに関しても例外ではなかった。
K.Tからの高い要望に応えるために、K.Kはマキタが構築してきたモータ開発のノウハウを本新規モータに注ぎ込んだ。
マキタ独自のモータ最適化シミュレーションプロセスを経て、1,000を超えるシミュレーションから、コイルと磁石の最適な組み合わせや、形状を検討し、軽量化を追求した。
また、モータの部品構成を工夫することで、起動・重負荷トルクを向上させた。こういった技術要素を盛り込むことでなんとか要望を達成することができた。

安堵したのも束の間、新規モータを製品の試作機に搭載し、評価を行ったところ問題が発生した。性能が向上した結果、発熱の密度が増加し、モータ構成部品の温度が過度に上昇したのである。
量産納期が迫る中、対策形状を考案し、対策の影響が大きい生産部門や調達部門など、関連部署との連携を取ることで、なんとか量産にこぎつけた。
このように各部門が協力して柔軟な対応をとることができるのは、モータを始めとするコア技術に関する部署がマキタ内に全て存在するからであり、マキタの強さに結びついている。
最終的にリリースされた新型のトップハンドルチェンソーには、今回新規開発されたモータが搭載され、エンジン製品並みの軽さを実現しながら、既存の充電式チェンソーよりトルクを高めることに成功している。

Episode 3
グループ一丸となって
マキタのものづくりを進化させる

製品のコンセプトや構造が決まれば、それをいかに量産していくか、という工程に移る。製品開発担当のK.T、モータ開発担当のK.Kの思いを引き継ぐのは、生産技術担当のN.Tだ。
マキタでは製品の9割以上を海外の工場で生産しているため、現地の生産技術担当ともやりとりしながら、N.Tら生産技術部門が生産設備の設計、製作、立ち上げ、量産フォローを一手に引き受ける。
なお、マキタは生産設備もほとんどを内製している。実はこれは、他社ではあまり例のないことだ。
内製するメリットとして、迅速かつあらゆる形状・ロット数量に対応できることが、まず挙げられる。加工要求を満たす製品をつくるために、生産設備を細部までカスタマイズすることも、もちろん可能だ。マキタはその技術力に、絶対的な自信をもっていた。そういった背景があるなか、今回の生産設備開発においても、マキタグループのメンバーが一丸となり、検討と検証を繰り返すことになった。

新規モータは、従来のチェンソーに使われていたモータと比較すると重量としては100g近く軽くなった一方で、内製している手持ち式電動工具用小型モータと比較するとサイズとしては約30%大きくなっている。
サイズアップにともない、コイルをステータ(固定子)に巻く工程においてタクトタイム(ひとつの製品の製造にかける時間)の増加が予想されたため、N.Tら生産技術部門は加工そのものを高速に行うための設計を実施し、機械構造、制御方式に関して試行錯誤を繰り返した。
新製品のために生産設備をただ準備するのではなく、マキタのものづくりを進化させてやるんだ──。
そんな彼の強い思いが国内外の生産技術担当にも伝播し、従来の3倍のスピードで加工可能な設備を実現させ、タクトタイムを増加させることなく、量産することが可能となった。

モータ開発については、今後も軽量化・ハイパワー化が鍵となる。
本プロジェクトで得た知見を活かし、より魅力的な製品を世に送りだしていくことが、製品開発・モータ開発の目標だ。また、生産技術に対しては、さらに厳しい要求がつきつけられることになる。
常に新しい技術に挑戦し、実現に向け熱い議論をぶつけ合う。その先にこそ、マキタのものづくりの進化がある。